スコラ・カントールム熊本とは

【スコラ・カントールム】とはラテン語で「歌の学校」という意味です。中世の時代、教会がグレゴリオ聖歌の普及を目的として聖職者のために設置した機関です。

今回、熊本に新しい合唱団を立ち上げるに当たり、この【スコラ・カントールム】と言う名前を使わせていただいたのは、中世の【スコラ・カントールム】がグレゴリオ聖歌を学ぶ場として作られたように、この<スコラ・カントールム熊本>はグレゴリオ聖歌から始まり現在に至るまでの、いわゆる合唱音楽の歴史のすべてをみんなで勉強していこうという趣旨を持っているからであります。

私たちが現在歌っている日本の合唱曲も、実はこの中世のグレゴリオ聖歌と切り離すことはできません。しかし、その切り離すことができない音楽的意味、そしてグレゴリオ聖歌が現在に至るまでの音楽にどのように影響を与えてきたかということをしっかり理解して合唱に向き合っている人は大変少ないように思います。

 

実は、音楽の大元であるグレゴリオ聖歌を知ることで、今歌われている曲に込められた思いや姿が全く違って見えてきます。

私が合唱を始めた16歳の頃、「合唱なさる方はまずグレゴリオ聖歌を勉強しなさい」と音楽史学者の皆川達夫先生が話していらしたのをお聞きしました。それから何年もの間、その言葉を音楽的意味として実感することができませんでしたが、それから約30数年合唱をやってきた今、やっと理解できるようになって来たように思います。

私も50歳を越え、残りの人生があと何年あるかわかりませんが、その残りの人生を、自分が問い続け、思い追い続けてきたもの、そして30数年掛けて積み上げてきたものを少しでも皆さんと分かち合いながら、そしてまた、その中に新しい発見ができればという思いで、今回、この合唱団を立ち上げようという思いに至りました。

立ち上げる思いに至るには、もう一つ、大きな原動力がありました。それは、この熊本の地にたくさんの合唱を熱心に愛好する方がいらっしゃるということです。その方々もこれまで熱心に合唱に取り組んでいらっしゃったと思いますが、もっと勉強したい、まだ知らないことがあるはずだ、もっと音楽を真から楽しみたい、そのような意欲をとてもお持ちで、その熱い思いに触発され、私も再度、一緒に勉強し直したいという思いに至りました。

 

さてそれでは、具体的にこの<スコラ・カントールム熊本>でどのような活動をするかということですが、まずは大元であるグレゴリオ聖歌の勉強をしたいと思います。グレゴリオ聖歌の勉強をし、例えばそれが、中世からルネッサンスへ至る中で音楽的意味としてどのように取り扱われ、どのように音楽(この時代の音楽はすべて合唱音楽であるわけですが)に反映されていったかということを、実際、様々な曲に取り組みながら皆さんと一緒に勉強していきたいと思います。

一方で、中世・ルネッサンスの教会の外の音楽がどうであったか、そしてそれがこのグレゴリオ聖歌とどのように結びつき、逆にまた違うものとしてどのように成り立っていったのか。

さらに一歩進んでバロックに、古典へ、ロマン派へ、近現代へ、そして最後に日本の合唱曲へどう辿り着いていくのか。そのようなことも音楽づくりの中で並行して楽しみながら、5年かかるのか、10年かかるのか、何年掛かるかわかりませんが、一つずつをしっかりと、音楽的意味を理解しながら皆さんと共に勉強していきたいと思います。

当然、技術的な側面も同時に学んでいきます。例えば音律ですが、純正律から始まって中全音階、そして平均律に至る大きな流れがありますが、それが音楽の発展や曲のスタイルとどのような関わりを持っていたのか、その音律の違いで音楽はどのように違って聞こえてくるのか、というようなことを知るのも非常に大切なことです。

最終的には、自分たちが勉強した音楽が、伝統を受け継いでいる一番の大元であるヨーロッパの人々の琴線に触れる音楽になり得たかどうかを確かめられるところまで辿り着きたいと考えています。それらをすべて網羅し勉強した集大成として、一つの夢ですが、ヨーロッパへ行き、自分たちの学びの成果を確認できる場で演奏したいと思っています。

 

この思いに賛同し、これまでも合唱を熱心にやってきたがさらに勉強をしたいという熱意をお持ちの方々、一緒に勉強しませんか。たくさんの方々と音楽を学び、楽しめることを切に願っております。

音楽監督  雨 森 文 也

2018年2月11日
第6回演奏会から

「ヒスイ」

2019年2月10日

信長貴富作品展vol.2